2012年4月7日土曜日

産婦人科の基礎知識/卵巣過剰刺激症候群(OHSS)


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卵巣過剰刺激症候群(OHSS)ー排卵誘発の副作用として

ここでは、排卵誘発剤の使用の時に問題となる卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation sydrome:OHSS)について解説します。

OHSSってどんなもの?

hMG製剤などで卵巣が過剰に刺激されることで出てくる様々な症状を総称してOHSSと言います。
卵巣の腫大血管透過性亢進による腹水の貯留が二大症状となります。 卵巣の腫大だけでは大問題にはなりませんが、大量の腹水が貯留し、血管内の水分が減少し血液が濃縮された状態となります。

※卵巣の腫大;卵胞が多数発育して大きくなり卵巣全体が腫れあがること。
※血管透過性;血管は水分が血管の外に漏れないようにする仕組みがありますが、その仕組みが破綻すると血管内の水分が血管外に漏れ出てしまうことになります。この状態を血管の透過性が亢進したと表現します。


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起きやすい人はいるの?

OHSSを発生しやすい条件をOHSSのリスク因子といいます。
リスク因子が当てはまる人はOHSSになりやすいんだぞ、と考えておくことがOHSSの予防に重要なのです。 若年(35歳以下)、やせ型、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)あるいはPCOSに似た検査所見、OHSSの既往(以前OHSSになったことがある)などがあると発生が高くなります。血中エストラジオールの異常高値、発育卵胞数が20個以上、高用量のゴナドトロピン製剤使用なども重要となります。また、黄体機能不全に対するhCG追加投与や妊娠自体もOHSSのリスク因子となります。(妊娠は最終目標なのですが、実はリスク因子でもあるんです・・・)

症状は?

症状は軽症、中等症、重症、最重症などに分けられます。 卵巣が腫大することからはじまり、症状が悪化して最重症となると大量の腹水や血液濃縮がおこり死亡に至ることもあります。もちろん、全員が重症化するわけではありません。

患者さんの訴えとしては
・おなかが張った感じがする
・スカートやズボンが入らなくなった
・尿の出が悪い
・のどがやたら渇く
・むくみがある
・息切れがする
・気持ちが悪い
・下痢した
・体重が一日で1kg以上増えた
などがあります。


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軽症

卵巣の腫大は6センチ以下で腹部膨満感があるくらい。その他の検査では異常なし。

中等症

卵巣は6〜12センチくらいまで腫大。腹水が少量貯留。ヘマトクリット45%以下。
※ヘマトクリット;血液の濃度を表すもので40〜45%くらいが一般的。

重症

卵巣は12センチを超えて腫大。大量の腹水と胸水も出現。ヘマトクリット45%以上。低たんぱく血症。乏尿(1時間に30ml以下の尿量)。肝機能検査値異常。全身浮腫。

最重症

腹水は非常に多量で胸水も多い(呼吸困難)。ヘマトクリット55%以上。高度乏尿(一日尿量300ml以下)。急性腎不全や高度低たんぱく血症。血栓塞栓症。

腫大した卵巣が根元でねじれる、卵巣の茎捻転が発生すると卵巣が壊死してしまいます。


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予防はできるの?

予防をすることは可能です。
リスク因子を十分に頭に入れて、発育卵胞が多すぎる場合はその周期は排卵誘発中止も検討する必要があります。また黄体機能不全に対する同時治療としてはhCG投与ではなく黄体ホルモン投与をすべきですね。
hMGやhCGの投与法の変更も重要です。
例としては、hCGを10000IU→5000IU筋注へ変更したり、血中E2をモニターしてOHSSの発症が予想されるときはhMG製剤などの追加投与を一時中止してE2が3000pg/ml程度までhCGを投与しない方法などがあります。

 

管理や治療はどうするの?

症状に個人差があるので個別の対応が必要となります。

軽症に対しては外来通院管理が可能です。
安静、数日毎の受診で超音波検査や血液検査、また腹部膨満感の増悪や尿量減少などの自覚症状のチェックなどを行います。血液濃縮に対して輸液を行うこともあります。腫大した卵巣の茎捻転を防ぐため過度の運動を避けることも大切ですが、血栓症の予防のために寝たっきりという過度の安静も問題となります。


中等症に対しては必要に応じて入院が必要となります。
入院適応基準としては腹部膨満感が高度、悪心や嘔吐が高度、卵巣径が7センチ以上、腹水が上腹部に達する、ヘマトクリット45%以上などになります。入院したら安静にして、尿量、ヘマトクリット、白血球数、血清アルブミン、凝固系などの定期的な検査を行い血液濃縮などの程度を判断します。
十分な尿量が保てるように輸液を行います。
水分の取り込みが増えても尿量が増加しないときは利尿剤の使用や少量のドーパミンの使用も行われます。また不足したアルブミンの補充も必要となることがあります。

重症に対しては中等症例の治療をさらに強力に行い厳重管理を行います。
腹水が溜まり� ��ぎて呼吸困難等が出現したときは針を刺して腹水を抜きます。腹水中の大切なアルブミンを捨てるのは惜しいので、捨てずに専用の機器を使用して、腹水中のアルブミンを濃縮して血液に返す方法なども行われることがあります(腹水の再潅流法)。ヘマトクリットが上昇しすぎた場合は血栓や脳梗塞の危険が増すので血液を固まりにくくするヘパリンなどを投与します。
重症の状態で妊娠が成立するとさらに重症化するため場合によっては妊娠中絶を選択することもあります。



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