2012年5月16日水曜日

猩紅熱


 猩紅熱

 A群溶連菌でも、発赤毒素(Dick毒素、猩紅熱毒素)を産生する株に初感染した際、全身に、粟粒状の発疹や、苺舌が現れ、従来は、猩紅熱と呼ばれた。

発疹 苺舌(イチゴ舌)
 1.発疹の特徴
 溶連菌感染症(猩紅熱)で見られる発疹は、ほぼ全身の皮膚が一様に鮮紅色になり(汎発性紅疹紅斑様発疹)、毛嚢に一致して(毛根に沿って)粟粒大の少し隆起した小丘疹(粟粒大丘疹)が見られることが、特徴。

猩紅熱の発疹は、粟粒大の小丘疹(粟粒大丘疹)と、皮膚全体の紅斑や浮腫性腫脹(紅斑様発疹)が特徴
 発疹(汎発性紅斑様発疹)は、有髪部、手掌、足底(足蹠)には、現れない。発疹(汎発性紅斑様発疹)の色は、次第に、退色するが、皮膚表面のザラザラ(粟粒大丘疹)は、しばらく(1週間程度)、残存する。

 通常は、発熱した後に、1日程度、遅れて、発疹が現れ、その後、苺舌が、明瞭になる。
 発疹は、発熱して2日後まで(通常は、12時間以内)には、現れる。

 発疹は、粟粒大の少し隆起した小丘疹(粟粒大丘疹)で、皮膚全体が鮮紅色になる(発疹により、皮膚が鮮紅色を呈するので、「猩紅」熱と命名された)。
 発疹は、指で圧迫すると、赤さが消失し、蒼白になる。発疹部位は、充血していて、圧迫により、一瞬、色が消褪する。
 発疹は、最初、下顎部に、現れることが多い� ��発疹は、臀部、鼠径部、大腿内側、上腕屈側に、多く現れるが、手掌や足底(足蹠)には、現れない。発疹は、痒みを伴なう。
 溶連菌感染症に伴なう発疹は、直径1mm程度の大きさ(粟粒大)の小丘疹で、痒みを伴なう。皮膚全体も、発赤し、浮腫状になる。
 発疹は、肘窩(肘を曲げる部位)、鼠径部(太ももの付け根)、脇窩(脇の下)に、濃く現れる傾向がある。


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 発疹が現れた皮膚は、指で圧迫すると、圧迫した部位の発疹の色が、褪せる(消褪する)。発疹部位は、充血のみならず、外毒素(発赤毒素)により、血管内皮細胞が損傷を受け、血漿蛋白漏出による浮腫や、出血を起こし易くなっている。
 発疹は、脇窩、肘窩、鼠径部(そけいぶ)など、屈曲する皮膚に濃く現れ、線が入ったように見える(Pastia's sign)。
 発疹は、ゴムなどで縛って血液が溢血した部位の皮膚には、濃く現れる(Rumpel-Leede現象:陽圧皮膚溢血現象)。
 発疹は、他の化膿性炎症があったり、瘢痕がある皮膚には、現れない(Keller-Moro疹欠如現象)。
 猩紅熱の発疹が現れている皮膚に、ガンマグロブリン.0.1mlを皮内注射すると、翌日、皮内注射した部位を中心として、径30〜50mmの範囲で、発疹が消える(ガンマグロブリンテスト)。

 発疹は、口の周囲には現れないことが多い(口囲蒼白:28.8%)。
 粟粒疹(フリーゼルン)が見られることもある(1.7〜9.2%)。粟粒疹は、小丘疹の先端に浸出液が溜まり、白色〜黄色を呈する(鳥肌が立ったように見える)。
 発疹は、出現3日目頃から褪色し始め、出現4〜5日目より、発疹が現れた 皮膚の皮が剥がれる(陰部の皮膚から、始まることが多い)。

 発疹が現れ、発赤(紅斑)や浮腫が見られた部位の皮膚は、回復期に、糠状、あるいは、膜状に、皮が剥ける(落屑)。
 疹が現れた皮膚の皮は、手(掌側)と足(足底側)の皮膚は、膜様に剥がれ、手と足以外の皮膚は、糠様に剥がれる(落屑)。
 回復期(発熱1〜10日後)に、発疹が現れた皮膚、特に、手や足の指の皮膚(掌や測定側)は、爪の部分から、膜状に、剥けて、剥がれ落ちる。川崎病(MCKS)でも、回復期に、同様に、手や足の皮膚が、爪の部分から、剥離する。
 回復期に見られる、手掌や足底の皮膚の剥離は、指先(趾先)の部分の皮膚が剥ける程度のことが、多い。


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 しかし、重症例では、皮膚の剥離は、指(趾)のみならず、手掌や足底(足蹠:そくせき)にまで及ぶことがある。
 猩紅熱は、3歳未満の小児には、少ない。

 猩紅熱型の溶連菌感染症の発疹は、主に、頚部、脇窩、肘窩、陰部(下腹部寄り)、大腿内側、躯幹などに現れる。
 
 猩紅熱型の溶連菌感染症は、何度も、発症することがある:発赤毒素を産生する株に再感染した場合、初感染の際、発赤毒素に対して産生された免疫(抗体)が、十分に残っていれば、発疹は、現れない。溶連菌に感染して、早期から抗生剤を投与され(内服し)、溶連菌が産生する発赤毒素に対して十分な免疫(抗体)を獲得していない場合や、発赤毒素を産生する株に感染して数年経過して免疫(抗体)が低下している場合には、発疹が現れる。

猩紅熱の発疹
 猩紅熱は、かつては、法定伝染病に定めれていた。
 猩紅熱は、発赤毒素を産生する株が、上気道に感染した場合のみならず、皮膚に感染した場合(膿痂疹など)でも、発疹は、生じ得る。
 猩紅熱型の溶連菌感染症は、4〜6歳の小児が、多く発症する。1歳代の小児も、猩紅熱型の溶連菌感染症を発症するが、頻度は少ない(母親からの移行抗体の影響で、猩紅熱型の溶連菌に感染しても、発疹が現れない)。

 Dick試験(Dick反応)は、発赤毒素(Dick毒素:erythrogenic toxin)の標準希釈液0.1ml(注1)を、前腕に皮内注射し、24時間後に、直径10mm以上の発赤が現れれば、陽性と判定する。Dick試験が陽性の人は、発赤毒素に対する抗体を有していない。Dick試験は、1歳未満の乳幼児は、母親からの移行抗体により、陰性のことが多い(発赤毒素を産生する猩紅熱型の溶連菌に感染しても、発疹が現れない)。
 溶連菌感染症は、11〜12月に発生が多い。溶連菌感染症(猩紅熱型)は、夏場(8〜9月)には、発生が少ない(溶連菌は、気温が高い夏季には流行しない)。溶連菌感染症は、温帯地域では多い疾患だが、熱帯地域では稀な疾患。


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 A群溶連菌以外に、発赤毒素(Dick毒素:erythrogenic toxin)を産生する黄色ブドウ球菌が、皮膚(創傷部位、蜂窩織炎など)や、咽頭に感染しても、猩紅熱様の発疹が現れることがある。発赤毒素を産生する黄色ブドウ球菌が、皮膚(創傷部位など)に感染して、猩紅熱様の発疹を呈した場合(創傷猩紅熱)、発疹は、創傷などがある皮膚付近を中心に現れ、また、咽頭症状や、苺舌が見られないことが多い。

 フィリピン(フィリッピン)では、所謂、猩紅熱は、見られないと言う。フィリピンには、発赤毒素(erythrotoxin)を産生する溶連菌が、存在しないと言う。

 2.苺舌
 溶連菌感染症(猩紅熱)では、発熱した病初期には、舌は、白苔に覆われたように、表面が、白く見える。

 その後、白苔が剥がれ落ち、舌の上の表面の舌乳糖が、苺の表面のように腫れ、舌全体が発赤し、苺舌となる。
 口角が爛れ、口角炎や、口唇ヘルペスを合併することもある。
 苺舌は、解熱した後も、1週間程度は、所見が残ることが多い。

 なお、川崎病(MCLS)でも、溶連菌感染症と同様に、発疹と苺舌が、見られる。

 注1:Dick試験(Dick反応:Dick test)に用いる発赤毒素(Dick毒素:erythrogenic toxin)の標準希釈液は、強毒菌株を2%ブドウ糖加ブイヨンにて培養し、培養液を濾過して、100倍以上に希釈した毒素液が用いられた(mg N当たり、約106 skin test dose).
 A群溶連菌でも、株によって、発赤毒素の産生量や質が、異なる。
 C群溶連菌や、G群溶連菌も、発赤毒素を産生し得る。


 参考文献
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